超高齢社会の最前線にある介護現場が、深刻な人手不足に喘(あえ)いで久しい。その窮状を救う一筋の光として、在留資格「特定技能」による外国人材の受け入れが進んでいる。
多くの施設経営者が直面するのは、「どこの国の若者に来てもらうべきか」という問いだろう。もちろん、制度上の手続きや費用の多寡は判断材料の一つだ。しかし、心と心が触れ合う介護という仕事において、最も重視すべきは「人と人との相性」ではないか。
各国の国民性や文化的背景をひもとくと、それぞれの国が持つ独自の魅力と、日本の介護現場との親和性が見えてくる。ここでは、特に引き合いの多い3カ国に焦点を当てたい。
まず挙げられるのは、インドネシアである。 世界最多のイスラム教徒を抱えるこの国には、年長者を敬う文化が根付いている。お祈りの時間を確保するなどの配慮は必要だが、彼らの持つ底抜けの明るさと、家族を大切にするメンタリティーは、高齢者の孤独感を癒やす大きな力となる。彼らの笑顔が施設全体の空気を明るくしたという報告は枚挙にいとまがない。
次に、フィリピンだ。 英語が公用語であり、コミュニケーション能力の高さには定評がある。特筆すべきは、そのホスピタリティー精神だ。陽気で世話好きな国民性は、レクリエーションや利用者との対話において遺憾なく発揮される。EPA(経済連携協定)での長い実績もあり、日本の生活習慣への順応も比較的スムーズだと言える。
近年、急速に評価を高めているのがミャンマーである。 「徳を積む」ことを重んじる敬虔(けいけん)な仏教徒が多く、その性格は穏やかで勤勉だ。特筆すべきは日本語の習得スピードだろう。文法構造が日本語と似ているため、言葉の壁を乗り越えるのが早い。日本人の「阿吽(あうん)の呼吸」や慎み深さを理解しやすい国民性とも言われ、静かな環境を好む利用者との相性は抜群である。
むろん、これらはあくまで一般的な「国民性」の傾向であり、個々人の資質が最優先されるべきなのは論をまたない。「〇〇人だからこうだ」という予断は、時に個人の可能性を狭めてしまう。
しかし、異なる文化背景を持つ彼らが、どのような価値観を持って海を渡ってくるのかを知ることは、受け入れる側の責務でもある。
大切なのは、「どの国の人材が使いやすいか」という一方的な視点ではない。彼らの持つ国民性という「個性」を、施設のカラーや利用者のニーズとどう調和させるか。その視点に立ったとき、単なる労働力の補充を超えた、豊かな多文化共生の介護現場が生まれるはずだ。
異国の地で、日本の高齢者の手に触れ、支えようとする若者たち。彼らの「国」を知ることは、彼らの「心」に歩み寄る第一歩である。










