外国人材の「地方集中」が賃貸市場を破壊する?

2階建アパート


家主が契約を避ける「都市伝説」と、地方の住宅確保が抱える構造的矛盾

人手不足解消のため、特定技能や育成就労制度によって外国人材が地方の中核都市や郊外へと分散・定着することが期待されています。しかし、彼らが地域社会の一員として暮らす上で、最初の、そして最大の障壁となるのが「住居の確保」です。

地方の賃貸市場では、「外国人はゴミ出しのルールを守らない」「退去時の原状回復費用が高くつく」といった、明確な根拠のない「都市伝説」や偏見によって、家主が外国人との契約を避ける傾向が根強く残っています。この現象は、外国人材の地方定着を阻むだけでなく、空き家が増える地方経済の構造的矛盾を浮き彫りにしています。

地方で深刻化する「住居の壁」の正体

大都市圏では外国人向け賃貸仲介サービスが普及していますが、外国人材が新たに流入する地方都市や郊外では、そのインフラが不足しています。

地方の賃貸市場の特殊性

地方の賃貸市場は、大手不動産会社が管理する物件よりも、「個人オーナー(家主)」が直接管理する物件の比率が高い傾向にあります。

  • 個人オーナーの判断が全て: 大手の管理会社であればデータや保険に基づいた合理的な判断が下されますが、地方では家主の個人的な不安や過去の経験、さらには伝え聞いた噂などが契約可否を決定する大きな要因となります。
  • リスク回避への偏重: 多くの家主は、入居者トラブルが発生した場合の「処理コスト」を過度に恐れてしまいます。言語の壁や生活習慣の違いから生じる小さなトラブルが、大きなリスクとして認識され、「日本人限定」という安易な契約回避行動につながります。

空き家が増えるのに「住めない」矛盾

日本全体で空き家率が上昇し、地方では特に深刻です。にもかかわらず、働き手である外国人材が住居を確保できないという状況は、経済的な非合理の極みと言えます。外国人材の定着は、空き家の解消と固定資産税の納税者確保という、地方創生における二つの重要課題を同時に解決する鍵となり得るにもかかわらず、その機会をみすみす逃しているのです。

「都市伝説」の経済学:家主が求めるもの

家主が外国人との契約を避ける根拠は、感情的なものではなく、「将来発生し得るコスト(リスク)を誰が負担するのか」という経済合理性に基づいています。

家主の主な懸念(都市伝説の根源)実際のコストリスク
言語・ルール無視ゴミ出し、騒音、共用部利用などのトラブル対応コスト。
原状回復費用日本の生活習慣に不慣れなことによる、畳や壁の損耗、異文化由来の臭気の除去コスト。
未払いリスク帰国・転籍による契約解除後の家賃滞納や、夜逃げのリスク。

現在の制度では、これらのコストリスクは基本的に家主側に負わされるため、家主は「低リスク」の日本人を優先するインセンティブが強く働きます。

地方定着を促進するための「共生インフラ」の提言

外国人材の地方定着を成功させるためには、この「住居の壁」を、政府と自治体、そして企業が一体となって取り除く必要があります。

提言①:自治体による「家主リスク保険」の創設

家主が最も恐れる「退去時の高額修繕費」や「家賃滞納リスク」を、公的機関が一部保証する「外国人受け入れ促進保険」を創設すべきです。

  • 家主のインセンティブ創出: 家主にとってのリスクを公金で軽減することで、「日本人限定」という制約を外すインセンティブが生まれます。

提言②:多言語対応の「生活習慣コーディネーター」配置

特定技能や育成就労の登録支援機関に対し、住居周りのトラブル対応、生活ルールの指導、緊急時の通訳を担う専門のコーディネーター配置を義務付けます。

  • 責任の明確化: 家主は、問題発生時に誰に連絡すれば解決するかという「責任の窓口」が明確になることで、不安を大幅に軽減できます。

提言③:企業による「定住前提の社宅提供」

外国人材を受け入れる地方企業が、自社の空き社宅や寮を改修し、家族帯同を前提とした住居として提供することを、国が優遇税制で支援します。

外国人材が地方で働き、特定技能2号などになった暁に家族を呼び、地域社会の一員となるためには、賃貸市場が抱える「都市伝説」という名の経済的な不安を取り除くことが不可欠です。「人材育成特区」の議論と同様に、地方の住居インフラ整備も、もはや国家戦略として取り組むべき喫緊の課題なのです。