目指すべきは「シンガポール型」か「ドイツ型」か?高市政権下の二つの選択肢:外国人政策の国家戦略

シンガポールとドイツの国旗

高市政権は、外国人材の受け入れを「国益と国民の安全・安心」の観点から厳格化する姿勢を示していますが、その厳格化の先に、日本社会全体が目指すべき外国人政策の最終的なゴールは明確ではありません。

世界には、外国人材を国家成長戦略に組み込む二つの主要なモデルがあります。「シンガポール型」の高度選別都市モデルと、「ドイツ型」の地域分散・社会統合モデルです。

日本の深刻な人手不足と地方創生という二律背反の課題を解決するため、高市政権がどちらのモデルを志向し、政策を統合すべきかを比較検討します。


🇸🇬 シンガポール型:高度選別・都市集中モデル

シンガポールは、国土が狭く資源が限られる中、「高付加価値人材」のみを厳しく選別し、都市圏に集中させることで、国家の経済成長を最大化してきたモデルです。

特徴具体的な政策と影響日本が採用した場合の予測
高度な選別主義永住権獲得は極めて困難。ビザをSパス(技術職)やEP(専門職・管理職)などに分け、給与水準で厳しく選別する。東京・大阪圏に、世界トップクラスのIT・金融人材が集中。地方には原則として高度人材は流れない。
厳格な管理と競争ビザは「労働許可証」であり、国の経済状況に応じて発行枚数を厳しく調整。競争を促し、不必要な人材は容易に国外へ排出する。在留管理が徹底され、滞納や不正利用は激減。一方で、日本人の賃金も世界基準の競争に晒される。
経済成長への直結外国人材をGDPを直接押し上げる「戦略的資源」と捉える。日本のGDPは急成長する可能性を秘めるが、恩恵は一部の都市と産業に偏り、地方との格差が極大化する。

【適合性】 高市政権が掲げる「厳格な管理」や「国益優先」の理念に最も近く、日本の国際競争力を短期的に回復させるには有効です。しかし、地方の人口減少や介護・物流の人手不足といった「社会インフラ維持」という課題は完全に無視されることになります。

🇩🇪 ドイツ型:地域分散・社会統合モデル

ドイツは、トルコ系移民の歴史的経緯を踏まえつつ、熟練労働者や技術者を地域社会に分散させ、社会システム全体への統合を目指すモデルです。

特徴具体的な政策と影響日本が採用した場合の予測
地域分散の推進ブルーカード(高度人材)や職業訓練制度を活用し、地方の中小企業にも高度な技能者を誘致。言語教育や職業訓練を地域が担う。特定技能2号(長期滞在者)を地方へ積極的に誘導。地域の製造業や介護施設に定着し、納税者・消費者として地方を支える。
社会統合への投資外国人に対する言語教育や文化理解のプログラムに公金を投入し、社会的な摩擦を軽減。労働力の確保と同時に、新しい住民として受け入れる。地方自治体が多文化共生センターや国際学校の整備に積極的に関与し、医療費未払いなどの社会コストを公的に負担する。
社会の安定維持経済成長と同時に、社会保障制度の担い手としての役割を重視。社会の高齢化を緩和し、安定を維持する。GDPの伸びは緩やかだが、地方社会の崩壊を防ぎ、持続可能性を高める。共生に向けた財政支出が増加する。

【適合性】 日本の「地方創生」と「社会インフラ(介護・物流など)」の維持という課題を同時に解決するモデルです。しかし、「管理を厳格化したい」高市政権の理念とは異なり、多文化共生への「寛容性」と、社会コストへの公的な投資という、国民的な合意形成が不可欠となります。

日本の最適解:理念と現実の「ハイブリッド」戦略

日本の現状は、地方の崩壊と、都市部の国際競争力低下という二つの危機に直面しています。

新政権が目指すべきは、シンガポールとドイツの良い部分を組み合わせた「管理されたハイブリッド型」です。

  1. 都市部(高付加価値産業): シンガポール型の厳格な選別主義を導入。IT、金融などの高度人材誘致に特化した「特別ビザ」を設け、最短での永住権取得と、世界最高水準の賃金競争を促す。これにより、都市のGDPを強力に牽引する。
  2. 地方(社会インフラ産業): ドイツ型の地域共生モデルを導入。特定技能2号への移行を前提とした「地方特区」を設け、外国人専門大学と自治体が連携し、定着と社会統合を推進する。

高市政権の掲げる「ルール厳格化」は、シンガポール型の「管理」に親和性が高いものの、地方の現場で本当に必要なのはドイツ型の「統合への投資」です。

日本が外国人材政策の最終的なゴールを決めるためには、まず「国として、何を諦め、何に投資するのか」というビジョンを国民に示す必要があります。安易な「穴埋め」ではなく、この二つのモデルを参考に、日本の構造的な課題に適合した「新しい共生社会の設計図」を描くことが、新政権の最大の責任です。