日本の新しい土地規制の動きと世界の潮流:外国人による不動産取得の「見える化」は世界標準か?

杉林


日本で始まる「国籍登録義務化」の狙い

日本政府は、外国人による不動産取得の実態を正確に把握するため、不動産や森林を取得する際の届け出に国籍の登録を義務付ける方針を発表しました。これは、防衛関係など安全保障上重要な施設周辺の土地取得が増加している現状(昨年度の取得件数は全体の3.1%にあたる3498件)を受け、国民の不安を解消し、情報把握を強化する目的があります。

今回の新施策の核心は、取得者の国籍を明確にすること、つまり「誰が日本の土地を持っているのか」を「見える化」することにあります。

  • 対象: 不動産の移転登記時、森林取得時(法人代表者含む)、海外在住者による不動産取得の全ケース。
  • 大臣のコメント: 小野田経済安全保障担当/内閣府特命担当大臣は、12月16日の記者会見で「外国人による不動産取得に対する国民の不安を解消するため、把握した情報を適切な形で公表できるよう、関係省庁と連携して検討を進める」と述べており、把握後の対応も見据えていることが伺えます。


世界の先進国で高まる土地所有への規制

これまで、日本は「外国人による土地購入が最も自由な先進国の一つ」とされてきました。しかし、世界の先進国では、自国民の住宅確保や国家安全保障の観点から、外国人による土地や不動産の取得に対して何らかの制限や報告義務を課す動きが主流となっています。

日本の今回の「国籍登録義務化」は、こうした世界の規制強化の潮流に一歩足を踏み入れるものと評価できます。

1. 住宅市場保護のための厳しい規制(カナダ・オーストラリア)

住宅価格の高騰が深刻な国では、外国人による投機的な購入を抑えるため、取得行為そのものに制限を設けています。

  • カナダ: 2027年1月まで、非居住者による住宅用不動産購入を原則禁止する時限措置を導入。さらに、州レベルで高い外国人購入税を課しています。
  • オーストラリア: 外国人による既存住宅(中古物件)の購入を原則禁止し、新築物件や開発用地に限定しています。購入には政府の審査(FIRB)と高額な申請費用が必要です。

2. 安全保障・農業用地の報告義務と制限(アメリカ)

アメリカは原則自由ですが、国家の利益に関わる分野では厳しい報告・審査が求められます。

  • 安全保障(CFIUS): 軍事施設や重要インフラ周辺の不動産取引については、対米外国投資委員会(CFIUS)の審査対象となり、外国資本の開示が求められます。
  • 農業用地(AFIDA): 外国人による農業用地の取得・保有には、国籍を含む情報の農務省への報告が義務付けられています。さらに一部の州では、特定の国(中国、ロシアなど)の個人や事業体による土地所有を禁止する動きが出ています。


日本の新施策は「規制」よりも「情報把握」が先行

比較すると、日本の新しい施策は、カナダやオーストラリアのような取得行為そのものを禁止・制限する「規制型」ではなく、アメリカのAFIDAやCFIUSのように実態を「把握・報告」させる「情報収集型」に近いと言えます。

国名規制の主な目的規制/報告の形態
日本安全保障、実態把握国籍の届出義務化(情報収集型)
カナダ住宅市場の保護住宅購入禁止、高額課税(制限・規制型)
オーストラリア住宅建設の奨励既存住宅の購入禁止(制限型)
アメリカ安全保障、食料安全保障重要土地の審査義務、農地情報の報告義務(情報収集・審査型)



抜け道対策と今後の課題

政府が実態把握を目指す中で、懸念されるのは「日本人の名義を借りる」といった名義貸しによる抜け道です。

名義貸しは税法上・民法上のリスクを伴いますが、形式的な所有者と実質的な資金提供者を一致させないことで、国籍登録を形式的に回避しようとする可能性があります。

今回政府が把握した情報に基づき、安全保障上問題があると判断した場合、今後、以下の課題への取り組みが求められます。

  1. 実質的支配者情報の開示強化: 登記上の名義だけでなく、資金源や最終的な支配者が誰なのかを突き止める仕組みの導入。
  2. 既存の規制の活用: 外国為替及び外国貿易法(外為法)の報告制度など、既存の制度と連携させ、より包括的に土地取引を監視する仕組みの構築。

日本の「見える化」は、土地所有の透明性を高め、国際的な規制潮流に沿った第一歩です。しかし、これが実効性のある安全保障対策となるか、また、単なる「情報収集」で終わるのかは、今後の詳細な制度設計にかかっています。