インドネシアで“即戦力”を育成──整備士不足に挑む日本企業

インドネシアの自動車整備工場

日本の自動車整備業界は、今、極めて深刻な人手不足という難題に直面しています。このままでは、愛車の車検や日常的なメンテナンスが滞り、「日本の車の安全」そのものが崩壊する危機にあります。

この危機を打開するため、自動車業界向けの特定技能外国人材を紹介するアプティグローバル(東京都渋谷区)は、大胆な一手に出ました。2026年春の開校を目指し、インドネシアのランプン州東ランプン県に、自動車整備と日本語を専門的に学ぶ高等学校を設立すると発表したのです。この取り組みは、日本の自動車産業の未来を左右する、極めて重要なプロジェクトです。


現場の悲鳴:「車が直せない」整備士不足の深刻度

日本の自動車整備士は、高齢化と若者の離職により数が減り続け、労働力の確保は待ったなしの状況です。

  • 高齢化と引退: 経験豊富なベテラン整備士が次々と引退する一方で、若年層の新規参入は追いついていません。
  • 技術継承の危機: 自動車の高性能化・複雑化が進む中、高度な技術を持つ人材の育成が急務ですが、現場は手が回らない状況です。

もし整備士の数が減り続ければ、車の点検・修理が遅れ、安全性の確保や車検制度の適正な維持が困難になる—これが、日本の自動車業界が直面する「車の危機」です。

インドネシア専門高校:日本社会への二重の貢献

アプティグローバルがインドネシアで設立する専門高校は、この日本の整備士不足に対し、根本的な解決策を提供することが期待されます。

貢献①:「整備力×日本語力」を兼ね備えた即戦力の供給

この専門高校では、中学を卒業した学生が3年間かけて、日本語、自動車整備、板金塗装、二輪車整備などを体系的に学びます。

  • 教育と就労の直結: 学生は卒業後、特定技能人材として日本企業から内定が出れば、日本で就労できます。これにより、日本企業は即戦力として、高度な技能と日本語能力を兼ね備えた人材を安定的に確保できるようになります。
  • 透明性の確保: インドネシア政府認定の人材紹介事業者(P3MI)の資格を持つ現地法人が、企業面接から雇用契約、送り出し、日本就業後のサポートまで、中間業者を介さず一貫して行うため、不当な費用徴収やトラブルのリスクを排除し、透明性の高い雇用を実現します。

貢献②:現地の若者に「未来への選択肢」を創出

この学校の建設予定地周辺では、専門高校が不足しており、若者は学ぶことを断念するか、他州に出るしか選択肢がありませんでした。

  • 地域の希望: 地域住民の9割以上が農業に従事する中で、新設される専門高校は、若者に教育の機会と進路選択肢を提供し、若年層の人口減少という地域課題の解決に貢献します。
  • 国際的 Win-Win: この取り組みは、日本の人手不足解消インドネシアの地方教育・雇用機会の創出という、二つの社会課題を同時に解決する、持続可能な国際協力のモデルとして機能します。

この専門高校は、日本の自動車産業の未来を維持するための「最終兵器」であると同時に、日本の技術と教育を通じた国際貢献の新しい形を示していると言えるでしょう。