故安倍元首相の外国人受け入れの意思:「開かれた国」は実現したか?

日本国旗が青空をバックにはためいている

安倍晋三元首相が掲げた「開かれた国」というビジョンは、人手不足の解消と外国人材との「共生」という二つの側面を持っていました。現在の状況を見ると、経済的な必要性から外国人材の受け入れは拡大しており、彼の志は一定の形で受け継がれていると言えます。しかし、外国人との「共生」という理念については、揺らぎが見られます。


拡大する外国人材の受け入れ

安倍政権下で創設された特定技能制度は、従来の技能実習制度が抱える課題を改善し、より明確に外国人材を労働力として受け入れるための枠組みでした。当時、安倍氏は「移民政策ではない」と強調し、受け入れ人数や在留期間に明確な上限を設けることで、国民の不安払拭に努めました。

現在、特定技能制度は、安倍氏の志に沿って拡大を続けています。2024年6月末時点で在留外国人数は25万人を超え、政府は2028年度までの5年間で最大82万人の受け入れを目標に掲げています。また、事実上の永住に繋がりうる特定技能2号の対象分野が大幅に拡大されたことで、外国人材は日本の労働市場にとって不可欠な存在となりつつあります。

揺らぐ「共生」の理念

一方で、特定技能制度の拡大が進むにつれて、「共生」という理念は後退しているように見えます。安倍氏が重要視した外国人材の生活支援や日本語教育といった共生社会のインフラ整備が、受け入れ拡大のスピードに追いついていないという指摘があります。

現在の自民党内では、外国人材の増加による治安や社会保障への懸念から、管理・監督を重視する声が強まっています。これは、外国人材を労働力としてのみ捉え、彼らが日本の社会で安心して生活するための環境づくりが置き去りにされていることを示唆しています。また、技能実習制度に代わる新たな「育成就労制度」の議論も進んでいますが、これも人手不足解消を最優先課題とする、より実用的なスタンスを反映していると言えるでしょう。

結論:経済的必要性の優先

安倍元首相が目指した「開かれた国」は、人手不足解消という経済的な側面においては実現しつつあります。しかし、外国人材が日本社会に溶け込み、共に生きていくための「共生」という側面は、現在の政治的な議論の中では後景に退きつつあります。制度は拡大していますが、その拡大が単なる労働力の補充に終わるのか、真の意味での共生社会の実現につながるのかは、今後の日本の政策の方向性にかかっています。