技能実習制度の本来の目的は、「日本の技術や知識を母国に持ち帰り、産業発展に貢献すること」にあります。しかし、実際に日本で経験を積んだ彼らが、帰国後にどのようなキャリアを歩んでいるかについては、あまり知られていません。今回は、日本での経験を単なる職歴で終わらせず、母国で新たなキャリアを築き、社会変革の担い手となっている「帰国人材」の姿を追跡します。彼らの成功事例は、外国人材雇用を考える私たちに、制度の真の意義を教えてくれます。
目次
「元実習生」が母国で描くキャリアパス
調査によると、日本で経験を積んだ帰国人材のキャリアは多岐にわたりますが、特に目立つのが以下の2つのパターンです。
1. 日本式マネジメントで起業家へ
日本の建設現場で技術を学んだ元技能実習生が、帰国後に自ら建設会社を立ち上げた事例があります。彼は、日本で学んだ高度な施工技術だけでなく、特に「安全管理」や「品質管理」といった日本の建設業界特有のマネジメント手法を深く学びました。母国の建設現場では、安全意識の低さや品質のばらつきが課題となっていましたが、彼は日本式の徹底した安全管理システムを導入。さらに、職人たちへのOJTを通じて技術指導を行い、母国の建設業界の近代化に貢献しています。日本で得た経験は、彼を単なる技術者から「日本式マネジメントを母国に広める起業家」へと変貌させました。
2. 現場のプロフェッショナルから指導者へ
介護分野では、日本で高齢者ケアのノウハウを学んだ女性が、帰国後に介護施設を立ち上げたり、現地の介護士養成学校で教員を務めたりする事例が報告されています。彼女たちは、日本の「自立支援」を重視する介護技術や、利用者一人ひとりに寄り添うケアマインドを深く理解しました。これを母国で応用し、高齢者福祉サービスの質の向上に尽力しています。日本の技術が、母国における高齢化社会の課題解決に直接的に貢献している、まさに制度の理念を体現する姿です。
「なぜ」成功できたのか?
これらの事例に共通するのは、単に「技術」を身につけただけでなく、以下の要素も同時に習得したことです。
- 日本語によるコミュニケーション能力: 日本語を習得したことで、現地の日本語学習者や日本企業と円滑なコミュニケーションが可能となり、ビジネスチャンスを広げることができました。
- 「報連相」などの日本式ビジネス習慣: チームで働く上での規律や、円滑な人間関係を築くためのマナーは、母国でのマネジメントにおいても大きな武器となっています。
- 日本の「働くこと」に対する価値観: 責任感、時間厳守、高品質へのこだわりなど、日本の勤労観は彼らのビジネス成功の土台となっています。
「追跡なき国際貢献」という欺瞞──制度の真の姿を問う
これらの成功事例は、技能実習制度が掲げる「国際貢献」という理念が、確かに一部で実現されていることを示しています。しかし、その一方で、この制度が抱える根本的な問題にも目を向ける必要があります。
技能実習制度の目的である「技術を持ち帰る」という建前にもかかわらず、帰国した実習生がその後どうなったかを、制度として組織的に追跡調査することはありませんでした。これは、PDCAサイクルでいう「Check(評価)」が全く機能していないことを意味します。この「追跡なき国際貢献」という欺瞞が、制度をただの安価な労働力確保の手段へと変質させ、多くの人権問題や批判を招く温床となってきたのです。
育成就労制度への変更は、この建前論にようやく終止符を打つ、必然の帰結でした。しかし、新たな育成就労制度もまた、実質的には特定技能への移行を前提とした「特定技能0号」のようなものであり、中途半端な側面が否めません。
真に合理的で透明性の高い外国人材システムを構築するためには、育成就労という制度を新設するのではなく、育成期間そのものを特定技能制度に統合し、在留資格を一本化するという大胆な改革こそが求められます。それは、外国人材を単なる労働力ではなく、日本の技術と未来を共に創る真のパートナーとして迎えるための、次なる一歩なのです。